マウンテン・ゴリラのカーライフ

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ガチスポとコモディティの間・その1・スイフトスポーツ

 

 

 

欲しいクルマが無い・・・

2000年くらいまでは、Bセグのカローラ2やヴィッツよりもクラウンやマーク2の方が販売台数が断然に多かった。人口ボリュームゾーン団塊世代がまだまだ現役で、見栄えが良い中上級モデルが売れたわけだけど、この世代が役職定年を迎え始めた2000年辺りから、日本メーカー各社は「リッターカー」なるダウンサイジングな小型車を日本市場で競って販売するようになった。それから20年余りが経過し、現在ではヤリス、フィット、ノートなどBセグ車が大手3社における日本市場主力モデルとなっている。

 

Bセグ相当の小型車は、世界ではもっと先に登場していて、オイルショック以降の1980年代まで遡る。日本のバブル景気とは対称的に世界各地の景気は冷え込んでおり、欧州や北米の市場で一足先に低価格車(バジェットカー)の需要が拡大していた。低価格車の流通は、乱立する自動車メーカーの利益率を押し下げ、次々と経営破綻に追い込まれた。日本だけ7、8社が今でも残っているが、他の国では2、3社に集約されてた。業界再編の波はバブル崩壊の日本も直撃した。行政からも「環境性能シフト」が厳命され、2000年頃の日本メーカーはいずれも破綻のリアルが突きつけられ、国内市場は手堅く「リッターカー」で目先のシェアを取りにいった。

 

 

他のBセグとは違う

1980年代にすでにアメリカのGM傘下にあったスズキは、バブルの前の段階でシボレーやポンティアックと共通設計の「カルタス」を日本でも発売していた。しかしバブル絶頂の日本では見栄えがしない小型車の売れ行きは良くなかったようだ。1988年発売の2代目「カルタス」には車重780kgのボデーに1.3L自然吸気ながら115ps / 7500rpmというフェラーリ級の高回転NAエンジンが搭載された。イニシャルDにぜひこれを登場させて欲しかった。

 

2000年のFMCで「カルタス」から「スイフト」に車名が変わる。他社のリッターカーに寄せた部分もあったようだ。2003年には海外向け3ドアボデーを使った「スイフトスポーツ」が設定される。新たな1.5LのNAエンジンは、先代カルタスのハイエンドモデルと同じ115psだったが、車重が100kgほど増えているのでパワーウエイトレシオはやや悪くなったようだ。その後スイフトスポーツは絶えることなく開発が続けられ、現行は4代目となる。搭載ユニットは2代目126ps(1.6LNA)、3代目135ps(1.6LNA)、4代目140ps(1.4Lターボ)と性能を上げている。車重も970kgに抑えられていて初代スイスポから大きくは増えていない。

 

 

 

自動車メーカーの落日

平成不況が続く中で、団塊世代向け「リッターカー」と、団塊ジュニア世代向け「ミニバン」は、急速に過疎化が進みクルマ社会が広がっている日本においては、鉄道やバスに代わる「交通インフラ」としてニーズが高まった。趣味のクルマより実用車を真面目に作ることが経営の基本となった。各メーカーともに使命感を持って取り組んでいる。財政危機から道路の補修もままならない地域も増えていて、豪雨災害の後に土嚢で応急処置のガタガタで段差のある道路を安心して走るため、最低地上高が確保されている「SUV」が人気になっている。

 

バブル期を経過してカローラ、サニー、シビック、ファミリアが高級化・大型化し、その下のサイズ&価格帯にヴィッツ、ノート、フィット、デミオが2000年前後に相次いで企画された。これらリッターカーに対してスイフトはグローバル車・カルタスの後継モデルとして生まれてきた背景がある。他社がコモディティありきで低コストで仕上げたBセグとは事情が違い、スズキだと販売の影響を受ける上位モデルもないことから、低価格でハイチューンエンジンが搭載されるモデルが作れた。

 

 

高級化=陳腐化

リーマンショック後の2010年代になって、日本メーカーの主力ラインナップは、無駄なモデルをとことん排除するという方針のもと、コモディティ化がさらに押し進められた。さらに経営安定化と日本生産維持を名目に、「コモディティ化によるプレミアム演出」というムーブメントが過剰なまでに進んでいる。軽自動車でもシートヒーター装備は当たり前。Bセグでもレザーのパワーシートが付くモデルもある。クルマの本質部分のコストは徹底的に削減するけど、販売価格を高めるためにコストの多くを内外装やデザインに割り振るようになった。

 

150万円で売れるスペックのミニバンやSUVの内外装を上質なものにアップグレードして乗り出しで400万円くらいで売るのが定番化している。生活の中に一定割合でクルマ移動時間が含まれている人にとって、快適な移動時間に対する対価として十分に評価されているから異論はない。しかし400万円くらいでリッチな移動時間が楽しめるモデルと、200万円くらいのバジェットカーの「二極化」ラインナップで各社横並びでは、クルマ選びは以前ほどワクワクしない。コモディティ化なんて最悪だ・・・という独善的な考えも湧いてくる。

 

 

走りが好き過ぎるユーザー

世知辛くなった自動車産業の中で、本体価格220万円のワングレードで販売されているスイフトスポーツは、古き良きクルマ作りの伝統を多くのユーザーに感じてもらえる素晴らしい企画だと思う。価格やエンジンパワーでは比べられないところに、「クルマの美点」があるってことを教えてくれる数少ない現行モデルだといえる。例えば日本車でドライビングフィールを追求して選ぶならば、ホンダ・シビックMAZDA3はかなり上位に位置するモデルではあるけども、この2台の走りにすら満足できないという人も少なくない。

 

シビックMAZDA3もメーカーがそれぞれMT車を意図的に設定するなど、ドライバーズカーとしての自負は高い。1300kg程度の車重で以前よりワイドで低重心なため、1800kg前後の車重があるミニバンやSUVよりもあらゆるドライビングのレスポンスだったり限界走行性能も圧倒的に高い。現行モデルではドライビングに特化したモデルであるけども、コモディティ化の影響は色々と感じてしまう。これ以上の非日常な走行性能を求めるならば専用設計シャシーを持つスポーツカーや、シビックtypeRのようなモデルを500万円以上払って手に入れるしかない。

 

 

 

オンリーワン

高級感こそ損なわれるけどもスイフトスポーツは、シビックMAZDA3よりもエクストリームなドライビング性能を持ち合わせている。FF車は車体を引っ張るトルクが一定レベルを超えると前輪操舵が不安定になる欠点があるため、安全なドライビング性能を担保するため、ゼロ発進時には前輪に無理させないようなパワーの出方になる。シビックMAZDA3の車重1300kgクラスになると、ある程度は駆動のかかりにもたつきを感じてしまう。しかし車重のアドバンテージがあると、負担は小さくなるので、スイフトスポーツの方が遥かにスマートな出足を持っている。

 

ある程度は後席の居住性を保つため、Cセグ車のホイールベースシビックだと2700mm、MAZDA3だと2725mmなのに対して、Bセグのスイフトスポーツはわずか2450mmに収まっている。これにより最小回転半径も小さくなる上、Cセグ車だと旋回時にボデーの長さに間延びしたフィールが出てしまうが、スイフトスポーツでは、遥かに意のままに切り込めるステアリングの感覚がある。カルタス以来のグローバル設計を受け継ぎ、現在もパワーウエイトレシオと車両サイズにこだわって設計を続ける狙いはハッキリと理解できる。

 

 

コモディティにならない理由

MAZDA2もフォードフィエスタに供給されていたグローバル設計を受け継いではいるけども、ディーゼルエンジンを搭載したり、内装を作り込んだりした結果、ホイールベースは2570mmで車重1200kg前後となり、スイフトスポーツとドライビングを競うモデルではなくなってしまった。トヨタヴィッツからグローバル共通のヤリスへと進化し、高性能エンジンを搭載した400万円のGRヤリスなど強烈なグレードも用意されているが、やはり2550mmのホイールベースには、コモディティに振った痕が見られる。

 

スイスポの孤高のコンセプトに対してトヨタは包囲網を敷いている。同じ220万円でカローラスポーツの一番安いグレードが買える。2L自然吸気で170ps / 6600rpmのダイナミックフォースエンジンが搭載される。これにMTを組み合わせたら、トヨタの上位モデルを喰ってしまうので10速CVTのみの設定だけども、価格とスペックでスイスポを意識したようだ。トヨタが本気になるなど販売環境は厳しくなってはいるが、細かい設計を考えれば他社が真似できないところにあるスイフトスポーツは今後も価値あるクルマであり続けることに期待したい。