マウンテン・ゴリラのカーライフ

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ガチスポとコモディティの間・その3・アバルトF595

 

 

 

欲しいけど価格上昇が止まらない

世界的な物価高なのか円安なのかわからないけど、輸入車価格の上昇率は消費者物価指数のそれを大きく上回って上昇している。アバルトの親会社フィアットもステランティスというオランダに本社を置く巨大グループの一員となり、日本向け戦略の変化に注目していたが、今のところは他の輸入車ブランドを上回る価格アップばかりが目に付く。同じグループのプジョーシトロエンジープにも同じ傾向が見られる。

 

 

ベースモデルに当たるアバルトF595の新車本体価格は448万円になった。10年前は同じようなベースモデルが300万円ほどだったので単純に1.5倍になっている。実際に買うとしたら現状のラインナップで最有力なのが、ソフトトップの「F595C」で475万円となる。価格設定が巧みだとは思うが、乗り出しで500万円だと、中古車とはいえBMW・M2コンペティションが買えてしまう。まだまだ市場はコンパクトカーのスポーティモデルの価格としては受け入れられない感じだけども、ステランティス・ジャパンも勝算がないならこんな価格にはしないだろう。アバルトにとっては日本はイタリアの次に売れている市場だと聞いたことがある。

 

 

 

クルマの価値は変わっている

約500万円のアバルトF595Cをある程度のコンディションで10年乗ったとして、それでも希少なモデルゆえに下取り価格は100万円くらいは軽く超えてくるだろうし、スポーツカーの加速フィールが得られるけど、軽量&小排気量モデルなのでそこまでハイオクをがぶ飲みする感じでもない。さまざまな要素を考えれば決して無理な価格というわけではない。物価上昇であらゆるモノの価格が変化しているけども、その分「額面」ではなく消費の「質」をしっかりと見極める習慣は身についてきた。可処分所得を何に使うかは人それぞれで、ジム=ロジャーズ寄りの人は債権を買って満足し、ジャン=ボードリヤール寄りの人は旅行などのアクティビティ(自己投資)に使うだろう。

 

クルマの所有コストは高い。「あぶく銭は債権とアクティビティに全てつぎ込む」くらいに達観している人でないと気持ちよくは支払えない。世間でクルマ離れが進めば、クルマ所有の価値は高くなる。実際にホンダ・ヴェゼルが1台あれば、生活時間のオプションは大きく増える。日本のどこへでもふとした時に何かを探しに行ける。そこで見てきたもの経験したものが、次の人生の収入源になる時代だ。わざわざ南極やアマゾンの奥地まで行かなくても、日本のマイナーな場所をSNSで紹介するだけで簡単に収入が生まれてしまう。

 

 

輸入ブランドの変容

アバルトF595は、街中で溢れているドイツブランド車よりもずっと自己投資に相応しいクルマになったと思う。考え方にもよるけど、BMWなどのドイツブランド車は、日本で所有するには少々ハイスペックになり過ぎてしまった。日本メーカー車よりも上質かつ高価格であるブランディングが受け入れられて、BMWメルセデスは日本市場で確固たる地位を築いてきた。しかし近年の日本車の価格上昇を受けてより差別化できるグレードのモデルへと販売の主軸に移している。実際のところ主力モデルは、単価1000万円前後からそれ以上の価格帯になる。

 

クラウン、アルファードランドクルーザースカイライン、アコード、CX-60、アウトバックレヴォーグレイバックなどの日本メーカーの高級車が500万円を軽く超えるようになった。日産のスカイライン発売時の顧客シミュレーションが話題になったが、これら1000万円を超える世帯年収向けに開発された充実装備の日本車は今でも予想以上にニーズがあるようだ。さらに世帯年収2000万円以上向けにレクサスが精力的にモデルを展開しているけど、目が肥えたユーザーにとっては、レクサスよりもメルセデスBMWに惹かれる傾向にあるようだ。

 

 

 

高級車は極まった

実家の隣にセレブな3階建てビルトインガレージ付きを構える隣人は、自然吸気時代の991と発売されたばかりのi5リムジンの2台を所有している。完全にドイツブランドに沼っていて、ドイツ車ばかりをとっかえひっかえ複数台買い替えている。これまでのドイツ車所有遍歴でさまざまなレパートリーがあったけれども、いよいよ厳選の2台に行き着いたようだ。セレブなデザイナーズ・ハウスによく似合っている。しかしこの方のように恵まれた社会的地位や収入が伴ったクルマ趣味を満喫できる人はそんなに多くはない。

 

日本メーカーの普通乗用車のおよそ半分くらいが「高級車」と言っていい装備を持つ快適なクルマになった。しかし「高級車」ってそんなにいいだろうか? 0〜60km/hまではトルク配分が絶妙にコントロールされていて過不足なく加速する。この速度域であればどんな輸入車よりもドライブは快適かもしれない。60km/hを超えると多くのモデルで運転補助機能が立ち上がり始め、レーンキープのためにステアリングが勝手に動き出す。トヨタ、日産、ホンダ、スバル、MAZDAメルセデスBMWの主力モデルであれば、今では当たり前に搭載されている機能だ。

 

 

分断が生まれる

さまざまな機能を搭載するために普通車のボデーは年々拡大され、上級モデルでは乗り心地を一定以上に保つために1700kg以上の車重が当たり前になっている。これではハンドリングを楽しむクルマとして売るには少々無理があるのだから、レーンキープ機能の精度で日本とドイツのメーカーが勝負するようになっている。同じクルマ好きでも「ロングドライブ派」と「スポーツドライブ派」では運転支援に対する考え方はまるで違う。300kmを超えるロングドライブになるとレーンキープの恩恵をそこそこ感じる。

 

 

一方で、仕事が終わった後に50〜100km程度の深夜ドライブを1〜2時間程度に楽しむのであれば、レーンキープなど必要なくてダイレクトな走りのクルマが楽しい。単純にレーンキープのON/OFFだけでなく、クルマの重量も大きく関わってくる。使い勝手を独断でジャッジすれば、300km超のロングドライブなら1700kg前後、50〜100kmのスポーツドライブなら1300kgかそれ以下くらいが合っていると思う。さらにトランスミッションの選択も重要な要素だ。ロングだとトルコンATがベストで、スポーツだとMTかDCTが好ましい。

 

 

 

競争力は十分にある

「ロング」と「スポーツ」に分断された乗用車市場に於いて、個性的な存在のアバルトF595の存在意義は高くなっている。「高速道路は使わない」という条件は、MAZDAロードスタースイフトスポーツと同じだ。この2台の日本メーカーのスポーティモデルは手頃な価格と、メンテナンス費用の安心感から根強い人気を誇っている。前述のような乗用車市場の変化も好調なセールスを後押ししている。そしてこの2台の日本車の上位互換スペックを誇るアバルトF595であるから、448万円の新車価格も理詰めで考えれば納得できなくはない。

 

スイスポロードスターを「使用環境」における仮想ライバルとすると、5速MTのベースグレード「F595」で車重1120kgで1.4Lターボは最高出力165psを発揮する。パワーウエイトレシオだけ見ても大人気の日本勢を圧倒している。さらにオープントップの「F595C」だと同じ最高出力で車重1160kgになるが、それでも十分に優位を確保している。MAZDAもスズキもアバルトF595くらいにピーキーなスポーティモデルを用意すれば、ブランド支持者も大いに喜ぶと思われるが、国交省の規制、あるいはサプライヤーの協力が十分に得られないなどハードルがあるようだ。そこを簡単に突き抜けるのが輸入車の魅力だと思う。

 

 

イタリア車の魅力

日本メーカーにも絶対的な権力をもつメーカーもある。トヨタがGRヤリスなる日本車離れしたハイスペックなコンパクトカーを発売している。休日の早朝に奥多摩や相模湖周辺の隘路に行けば、とんでもない加速のGRヤリスがブイブイ言わせて煽ってくる。道は細くてアップダウンも激しいなど完全なるラリーステージなので、実際のところおポルシェ911、35GT-R、シビックtypeRなどよりも早く走破できるくらいだろう。クルマ好きなトヨタ会長の影響もあってか、スポーツドライブ向けのモデルは近年になって豊富に用意されてつつある。

 

それでもアバルトF595には、走行性能だけではない魅力がある。パワーウエイトレシオでFF車の限界に近いスペックを持つので、FF特有のピーキーでスポーツ感覚溢れるハンドリングが無茶なスピードでなくても楽しめる。そして何よりGRヤリス、スイスポロードスターとの大きな違いとしてイタリア車の実力を遺憾無く発揮したインテリアデザインが秀逸だ。誤解されるかもしれないが「オモチャ」っぽい独特の雰囲気がある。日本メーカー車のインテリアに「ちょっと残念・・・」という感想を持ってしまったユーザーにとってはドンピシャな存在だと言える。

 

 

 

消費社会の神話と構造 新装版(ジャン=ボードリヤール)