トランプとMAZDA
MAZDAだけでなくトヨタにも苦境が迫っている。インド、タイ、メキシコ、トルコなどのグローバルサウスで生産されるクルマは、日本市場(WR-V、フロンクス、キックス、CX-3など)だけでなく、欧州や北米市場でもシェアを伸ばしている。トランプが自動車産業で問題視しているのは、ランクルやCX-90のような日本製の高級ラインではなく、メキシコで生産される低価格モデル(GM車、フォード車も多い)だと思われる。
トランプ1期目の末期となる2020年7月にUSMCAが発効した。メキシコなどで生産される非関税輸入車は、部品の75%(価格ベース)が北米製造で、かつ生産に関わる従業員の最低賃金までが時給16ドル以上と規定された。これによりモータートレンド誌が北米市場のトヨタ系ブランドで唯一5つ星を付けていた「サイオンiA(トヨタ・ヤリスセダン)」が廃止された。このクルマは2015年のトヨタとMAZDAのアライアンスで実現したMAZDA2のOEM車(メキシコ製)だ。
全モデルが大絶賛
2012年からのMAZDA第六世代は、CX-5(初代、二代目)で「SUV=高級車」というエゴで、あっという間にグローバル50万台/年規模のシェアを獲得した。アクセラ(三代目)は、日本市場にやってくる欧州プレミアムCセグとの比較で高い評価を得た。福野礼一郎さんがVWゴルフ(七代目)と並んで「日本車Cセグの最高峰」だと絶賛していた。そしてMAZDA2も、日本市場の輸入車販売ランキングで不動のトップであるMINIに質感で対抗するようになり「プレミアムBセグ」と表現された。前述の通りOEM車が北米でも最高の評価を得ている。
ロータリースポーツカーやハイパワーターボまであったMAZDA第五世代と、縦置きの直6エンジンをフラッグシップに頂く第七世代に挟まれた第六世代(2012〜2019)は、地味な印象ではあるが、個々のモデルがそれぞれのクラスで世界最高レベルの評価を得てきた。GJアテンザ(三代目)やNDロードスターもWCOTYのデザイン賞で高く評価されている。発売された全モデルがここまで大絶賛される総合自動車メーカーは、MAZDAとポルシェくらいのものだろう。
ポルシェとMAZDA
第七世代となった現在のMAZDAだけども、日本市場においては第六世代から継続しているMAZDA2とCX-5に支えられている。MAZDAとトヨタは、BEVの拡販が進む中国や欧州ではなく、ガソリン車が残る北米での販売拡大を見込んでCX-90&70とクラウンシリーズを開発した。日本とは真逆で北米ではCX-90がクラウンの販売を大きく上回っている。ポルシェ(=MAZDA)とVW(=トヨタ)が北米の高級車市場で争えば、カイエンがトゥアレグを圧倒するのは自然ではあるけども、この事実は日本のカーメディアは一切報じない。
2017年頃からトヨタとの資本提携も始まり、トヨタグループの一員として合同記者会見も当たり前になってきた。トヨタ会長から開発力を評価されたこともあってだろうか、トヨタ(=VW)、レクサス(=アウディ)、スバル(=シュコダ)、MAZDA(=ポルシェ)のような役割分担が見えてくる。VWとシュコダは共同で「質実剛健」なクルマ作りを行い、アウディはVWベースのモデルと、ポルシェに開発が移管された高性能車をラインナップし、プレミアムラインで高い収益率を叩き出している。
MAZDAが生き残る理由
ポルシェ911とMAZDAロードスターは、最もアイコニックなスポーツカーとして圧倒的な知名度を誇る。さらにMAZDAにはロータリースポーツの復活という可能性も残している。自動車産業は、オール日本、オールドイツのような大同団結もあり得るほど、グループ経営が必須な情勢であるが、巨大グループの中で個性を示すブランドの重要性は高いようで、ポルシェ、MAZDA以外にもアルファロメオ(ステランティス)、アルピーヌ(ルノー)、ロータス・カーズ(吉利汽車)などが、今後もグローバルで名前を残していくようだ。
輸入車好きな人々には怪訝な目で見られるかもしれないが、半世紀以上に渡って現在まで専用設計シャシーのスポーツカーを作り続けてきた総合自動車メーカーは、ポルシェ、MAZDA、シボレー(GM)の3社だけなのは事実だ。1967年のコスモスポーツ以来ずっと専用設計シャシーにこだわってスポーツカーを作り続けてきたことを理解している海外のクルマ好きは、当然ながらMAZDAを「スポーツブランド」として高く評価する。その「事実」においてはトヨタ、ホンダ、日産、メルセデス、BMWよりも称賛されて然るべきだとも思う。
ブランドのしがらみ
ポルシェもMAZDAも半世紀を超える自動車開発の歴史の中で、何度となく壊滅的な経営危機を乗り越えてきた。この両メーカーが生き抜いてきた共通点として、北米、中国、欧州、日本など主要市場の全てで多くのファンを持っている。自らを小規模メーカーとしながらも、大手のホンダのように全ての主要市場で支持されている。小規模であるがゆえに、ホンダよりも柔軟な商品設計ができるので、危機になるとすぐに起死回生の大ヒット車が出てくる。
しかし小規模であるが故に、市場を決定づけるような動きをすると失速する。ポルシェもMAZDAも新型モデルはことごとく支持を得られるが、ポルシェ・タイカンやMAZDA・MX-30のようなブランドイメージから外れたモデルを出すと、既存ファンから不満が噴出する。高らかにBEV移行を宣言したポルシェだったが、BEVの販売では価格競争で完全にBMWに敗北した。
アンチも多い
ロータリーEVとしてのMX-30は、渋滞地域&シビアコンディションでも効果的に立ち回れるスペック特性を持ち、それらの地域でも積極的にMAZDAに乗りたいという人(女性が多いかも)には待望のモデルである。しかしロータリーといえば、「FCだ」「FDだ」と騒ぐ頭文字世代には全く刺さらない。「32だ」「34だ」言ってる連中がノートe-POWERをゴミと酷評するみたいなものだろうか。日産だとそんな子どもじみた批判は起こらないけども、MAZDAの場合は精神年齢の低いカーメディアから目の敵にされる。不用意に「ロータリー」を名乗ったMAZDAのマーケティングが不味いのかも知れないが。
カーメディアの無作法についてはとりあえず別の機会に譲るとして、MAZDAもポルシェも現状では「自然吸気エンジン」と「MT」の呪縛から逃れられないし、変わらずに「ロードスター」や「911GT3」がブランドの象徴として君臨している。「自然吸気エンジン」ではないがホンダも「シビックRS」が日本で異例の大ヒットを記録した。MT車の人気が密かに再燃しているのかも知れない。夜中に郊外の道路を走っていると、納車したばかりなのかMT車のフィールを確かめる様子のクルマを多く見かけるようになった気がする。
ユーザーの変化
MT車の販売規模などたかが知れている。それでもシビック、N-ONE、N-バン、スイフト、ワゴンR、ジムニー、BRZ、GR86、ヤリス、フェアレディZ、コペン、MAZDA2、MAZDA3、ロードスター、レクサスLBXなどMTグレードがあるクルマは、話題性があるし、一定のファンが集まる。警察が煽り運転を罰則化し、各地で踏み間違え事故が頻発し、YouTubeでも危険運転の様子が無数に晒されている。そのほとんどがCVT車ということもあり、世間の意識は変わっているのかも知れない。ロードバイクに乗っていて危険な幅寄せをしてくるのは、99%がCVT車だ。BMWなどにされたことは一度もない。
バブル期はクルマが安かったので、誰でも買うことができた。クルマの価格高騰によって、新車を購入する層の知的レベルは格段に上がっている。福野礼一郎さんも同年代のライターはアホばかりだと愚痴が止まらないが、団塊世代と氷河期世代ではクルマ好きの知性やモラルは大きく違っている。肌感覚で恐縮だけども、スバルや日産の衰退を見るまでもなく、CVT車は氷河期世代のクルマ好きから無視されていくだろう。確かにCVTは渋滞路で有利だ。しかし休日の午後に巨大ショッピングモールや回転寿司が立ち並ぶ道路で渋滞にハマって時間を過ごすことが人生の無駄でしかない。
理想と誇りを忘れないで欲しい・・・
もしかしたら「FC」だ「FD」だと言っている人々と同じレベルの要求なのかもしれないが、MAZDAには徹底的に磨き抜いてきた「知性」を今後も守り続けて欲しいと切に思う。団塊世代にはMAZDAにあまり良いイメージを持たない人が多いみたいだけど、氷河期世代以降には受け入れられて2000年以降は販売が伸びている。MAZDAもわかっていると思うが、ハイブリッドとなることが発表されたCX-5へのCVTの採用は見送って欲しい。前述したがMAZDAは普通のメーカー以上に、イメージを損なう変化は大きな失敗を招く。
2012年のディーゼル導入は確かに上手くいったけども、BMWやメルセデスが同時期にディーゼルを導入したことがMAZDAの販売を大きく助けた。頼みのドイツメーカーも本国の景気悪化が大きく影を落としていて、日本市場では存在感が無くなっている。これまでクルマの理想を追求してきた、ポルシェ、MAZDA、メルセデス、BMWの「ドイツ四天王」の足並みが揃わない。これではドイツも日本も「クルマ離れ」が止まらない。MAZDAには決して理想を失わずに、「CVTはクソだ!!」と断言できる世界線を守り続けて欲しい。