クルマどころじゃない!?
新型コロナで世の中が混乱している。ちょっと不謹慎だけど、社会の脆弱性を見直すには良い機会になっていると思う。内部留保をたっぷりしている大企業はいくらでも耐えられるし、休業補償などあらゆる形でそれらを吐き出すことになる。一方で人をコストとしか見ない自転車操業な企業は淘汰される。日本に蔓延した「尊厳が与えられない仕事」で人生を無駄にする必要なんてないのだから実に喜ばしいことだ。多少の痛みを伴うだろうけど、社会が良い方向へ変わってくれると信じている。
マツダ、ポルシェ以外も・・・
増税とクルマ離れで、買い手市場感がますます強まった日本の自動車業界。クルマに詳しい人ならば、今の日本市場で乗用車を買うなら「マツダとポルシェ以外は要らない」ってのが正直な感想だろう。日本市場で決してユーザーに媚びることもないけど、無意味なブランディングで価格をつり上げることもしない。ごくごく普遍的な価値観に合った価格設定で売り続けているので、それほどたくさん売れているわけでもないけど、欲しい人、興味がある人はそれなりにいるので、新型モデルを出せば外すことなくバックオーダーが積み上がる。つまらない、話題にならないクルマは決して作らない。ここまでストイックにクルマ作りされれば、欲しいクルマランキングを作ればマツダとポルシェだけになってしまう。他のメーカーのクルマについて何も知らねーんじゃねーの!?とか言われたくないので、マツダとポルシェ以外で、しかもスポーツモデルも除外という条件で日本市場の現行モデルから、興味深いモデルを15台選んでみました。いうまでもなく選考基準はマツダ&ポルシェを代替できそうな完成度を誇るモデルであることです。
第15位 プジョー508
新車価格・424万円〜
マツダ&ポルシェを超える情熱!!
リーマンショックで大打撃を受けたPSAグループは、全力で中国市場を切り取り基盤市場を得ることに成功。2つのモジュラーシャシーと某日本メーカーとの共同開発モデルでラインナップを補充していて、自動車メディアは絶対に触れないけどシトロエン・ベルランゴのベースは日本設計のミニバン。再び欧州&日本市場への攻勢を強めている。傘下に収めたオペルも日本に再上陸すると報道された。PSAの中核を担うプジョーのフラッグシップとなる現行508は、先代508の「無念」を濯ぐために、あらゆる連続性を排除したかのような「突然変異」を見せた。
カイエンやパナメーラ、あるいはMAZDA3、MAZDA6にしてもフルモデルチェンジにおいて技術的なこだわりと車格、ジャンルではキープコンセプトによるシリーズの「連続性」に重きを置いている。「世界最良」を自認するマツダ、ポルシェの自信に溢れるブランディングは、もちろん意味があるのだけど、例えば「テスラ」のような突然変異型ブランドに対しては、パンチ力で後手に回る感じがしないでもない。100年以上の歴史を誇るプジョーだけれども、欧州と日本の中型車・スポーツカー市場から押し出され完全なる挑戦者の立場であることを認めた上で、イメージを一新するフルブランドチェンジを断行してきた。新型車を出しても全く日本で騒がれなくなったドイツのプレミアムブランドも置かれている状況は同じようなものだけど、彼らはそんな刷新など考えていないようだ。
「良いクルマ」=高性能化な図式が進みすぎて、自動車業界全体が歪んでしまった。中国市場が喜ぶようなロングデッキのサルーンをAWDで400〜600PSで駆動させてそれが商品力だと勘違いしている。レクサスLS、ホンダ・レジェンド、日産シーマはあっという間に終わった。ロングデッキで7人乗りのEクラスが中国&欧州で売れたけど、各メーカーがセダンを高性能&付加価値の方向へ追い込んだ結果、何の利益も生まないし、何の注目も起こさない「無風」の自称・高級車が増えた。Sクラス、7シリーズ、LS、レジェンドが本当に興味深いモデルであるならば、ランボルギーニもフェラーリもSUVではなくてサルーンを発売するだろうに・・・。
プジョー508は、ジャンルこそ違うものの、ポルシェ・パナメーラと並んで、悪しきサルーンのトレンドに「疑問」を呈している。いやデカイからとか中国市場向けだからダメというのではなくて、「良いクルマ」として認められるべく創意工夫を怠れば、ブランドのフラッグシップを務めるサルーンとしては「失格」だし、当然に市場も反応して先代モデルより販売台数が落ちる。「セダンが売れない」は言い訳でしかない。他のモデルを圧倒できる真のフラッグシップを体現できたセダンはグローバルのあらゆる市場で賞賛を受けることができる。空力は理想的で、衝突安全性でもあらゆるボデータイプで最も有利なのだから、グランドツアラーに一定レベルの性能を求めるユーザーは、常に時代を象徴するようなセダンを待っている。このプジョー508はそんなセダン好きを振り向かせるのに十分な創意工夫に溢れている。
第14位 テスラ・モデル3
新車価格・511万円〜
新興USブランドがアウディ、レクサスに勝つ理由
ファンはポルシェやマツダの設計にエンジニアの「エゴ」を感じることでクルマの価値を測る。良いクルマは「かんばん方式」が作るわけではなく、そのプロジェクトを決定する関係者のセンスが決める、つまり属人的なプロダクトであればあるほど価値が高い。MQBやらTNGAだから「いいクルマ」などと結論しているレビューを呑気に書いている評論家は、ポルシェやマツダのレビューでは何を書いていいかわからない状態になる。ちょっと前のマツダに対して「さっさとターボ化しろ!!」と書いている評論家はたくさんいたけども、此奴らは「911R」の前ではどんなレビューを書くのだろうか!?・・・とか呆れてしまった。
VWゴルフという歴史的なシリーズは、MQBと小排気量ターボ化によってその価値は崩壊してしまった。ポルシェやマツダが好きな人にとっては、全く評価できない零落れっぷりは悲しいし、歴代のゴルフに備わっていた「属人的要素」を最新モデルも受け継ぐべきだと思う。例えば初代ゴルフのデザイナーの個性とかさ。ポルシェとVWは同じグループだけど、ブランドのアプローチは大きく差がある。そしてマツダも初代ゴルフのような「属人的」要素を意識して現行モデルを設計している。熱烈なファンだろうがアンチだろうが、マツダの意識の高さには一定の評価を与えていると思う。
アメリカの新興EVメーカーが、メルセデスやBMWと同等以上のブランド単価で、より多くの台数を売る時代になった。レクサスやアウディももちろん超えている。トヨタやVWが30年余りにわたって「プレミアム」なクルマ作り、つまり「いいクルマ」を作っていたのだけど、それを新興メーカーがあっさり超えてしまったわけだ。トヨタもVWも面子は丸つぶれだし、こんなことが起こっていいはずはない。おそらくテスラをナメていたのだろう。トヨタもVWもあまりに巨大で従業員も多い。ファミリーの生活を守ることを優先するならば、テスラなど無視していても構わないのだろう。トヨタは自民党政権、VWはメルケルとの相互依存で成長を続けているけど、トランプという強力なブースターを得たテスラはまだまだ大胆に仕掛けて来るだろう。
世界中に展開する様々なプラットフォームビジネスを生み出すアメリカ西海岸は、乱暴な言い方をしてしまえば、世界のユーザーに「感動体験」を通じてサービスを売り込む術に長けている。カリフォルニア州の人口は3700万人くらいだが、同じく人口6600万人のイギリスをGDPで超えてしまっている。スペースXとテスラを率いるイーロン=マスクはカリフォルニアの英雄で、有権者の割合が40歳未満で50%を超えるまだまだ若い人口構成。老人天国の日本やドイツではイーロン=マスクは絶対に成功しなかっただろう。ドイツ車や日本車が輝いた時代はずっと昔のことであり、「属人的」にテスラが、トヨタやVWよりも優れていたと言わざるを得ない・・・。
第13位 ホンダ・アコード
新車価格・465万円〜
ナンバー1・タイ製造サルーンの実力
とうとう日本生産が終了してしまったアコード。1970年代以降に日本車の価値を世界に知らしめた日本メーカー全体を見渡しても最重要といえるモデルなので、寄居や鈴鹿で堂々と作って欲しいけども、どうやらホンダには「シュツットガルト」や「防府」のような聖地を本国に作る考えはないようだ。ホンダにとって大いなる飛躍の地となったのはオハイオ州マリーズビルなのだろう。現行アコードの組み立て工場はマリーズビル、中国、タイ、マレーシアに分布している。右ハンドル車はタイ工場で作るらしい。ちなみにBMW3シリーズもメルセデスCクラスもタイで作っている。
465万円という価格設定は、同じくタイで作る3シリーズ&Cクラスの日本価格とほぼ同じだ。日本製のカムリが345万円、レガシィが313万円、アテンザが289万円からの価格設定なのを考えると、ホンダ、BMW、メルセデスのタイ製Dセグサルーンの価格設定はメチャクチャ強気な気がする。「生産地」にこだわる人はマツダ、ポルシェだろうし、ブランドの「ネームバリュー」が気になる人にはメルセデス、BMWにしておけばいいのだろう。パナメーラ、MAZDA6(次期モデルのポテンシャルはヤバい!?)に加えて既出のプジョー508など、まだまだセダンで「何かをしたい」メーカーはあるのだけど、技術レベルで驚異的な垂直進化を見せているのが、先代から日本向けアコードに使われている2モーターのハイブリッドシステム。1800kgクラスのセダンを軽々動かす余裕の出力と、非HVとの差別化を強烈に意図した燃費性能はもっと評価されていいのだけど、3世代前(ほんの10年前)では「アコード・ユーロR」としてスーパースポーツのような高回転NAでぶっ飛んでいたのだから、あまりの急激な転換ぶりに日本ではファンがついてこれていないが・・・。
トヨタのTHS、テスラのロングレンジ高性能ピュアEVに挟まれて、ホンダの「スポーツハイブリッド・i-MMD」の一般レベルでの認知度は極めて低い。ドライバビリティと経済性の両立というコンセプトは、クルマ好きにはあまりウケないのかもしれないけど、電動化との距離感はどこよりも優れていると思う。アメリカにおけるホンダ人気は、BMWを凌ぐ走りと、世界トップの衝突安全性、オンリーワンなエンジン技術(日本未発売)、そして独創的なハイブリッド技術・・・という良いイメージの洪水なんだけど、日本市場では「何らかの力」でホンダのイメージは大きく毀損されている。日本とホンダの悲しい関係はいつまで続くのだろうか・・・。
第12位 スバル・アウトバック
新車価格・341万円〜
世界の頂点とは!?
1980年代にホンダ、トヨタ、日産がアメリカに生産拠点を設け、かの地での大きなシェアを勝ち取ったけども、1990年代に日本メーカーを研究したアメリカBIG3が息を吹き返し、2000年代には日本BIG3とアメリカBIG3、ヒュンダイ=キアという7大グループがアメリカ市場を分割したわけですが、2000年代に再建を目指したスバルが圧倒的な7大グループに接近する急成長を見せたのは快挙だ。その原動力になったのがアウトバックであり、アメリカ人が認めた偉大なる日本の「AWD&クロスオーバー」は、スバルのフラッグシップとしての意地が感じられる躾けられたフラットな乗り味には驚かされる。スバル自慢の水平対向エンジンの低重心設計は、セダンのB4や軽量なインプレッサよりも効果的だ。
これまでフラットライドの代名詞といえばドイツのFRサルーン、特にBMW5シリーズがベストだと考えられていたけども、6気筒NAの王道時代は終わり、今では低速トルク優先の直4ターボが日本市場での主流になっていて、ガソリンの523iや530iはせっかく余裕があるシャシーを存分に楽しむだけのロングレンジでアクセルフィールを楽しめるクルマではなくなってしまった。クロスオーバーにも関わらずフラット感でドイツ車と対峙できるアウトバックは、シャシー性能(フラット感)だけだと3シリーズならともかく5シリーズには届いていない。しかし排気量に余裕のある2.5L水平対向はNAエンジンの豊かなアクセルフィールに、低速域でトルク増幅効果があるスポーツCVT(嫌いな人もいるでしょうけど)の相性はスバルの中でもベスト。
アメリカ市場のヒットモデルとは、セダン、クロスオーバー、SUV、ピープルムーバー問わずに、大型ボデーでフラットな乗り味という共通点がある。パナメーラ、カイエン、X5、レンジローバー、アコード、オデッセイ、そしてアウトバック、CX-5。ホンダが初代オデッセイを5シリーズの走りをするピープルムーバーとして開発し狙い通りヒットさせた。BMWもやはり5シリーズのように走れるSUVとしてX5を成功させた。スバルはおそらくこの二台を研究した上で、アウトバックを開発しアメリカ市場で力強くブランドを浮上させることに成功した。
第11位 MINI(3ドア・クーパーS)
新車価格・370万円〜
なんでBセグなのに370万円!?って感じかもしれないけど、廉価グレードにはアクアやノートe-PEWERとあまり変わらない247万円というモデルもあります。しかし1.5Lガソリンターボ(3気筒)で102psという捉えどころのないスペックは怪しさ満点だ(デチューンエンジンはとても買う気にはならない・・・)。370万円で買えるのは3ドアで1240kgのMTモデル。BMWのユニットを横置き化した2Lガソリンターボ(4気筒)で192psが搭載されるBMWグループのモデルの中では最軽量となる。重たいDCTを搭載するグレードだと1270kgでかなりの差が出る。トヨタのGRヤリスと同等のスポーティさを持ち、独特なクラスレス感を実現したボデーのおかげで使えるシチュエーションもヤリスより確実に広い。これはお買い得だと思います。
初期モデルはアイシンAWのトルコンATと組み合わされていたけど、エンジンパワーに比べてボデーが小さすぎるのか、ホイールベースが狭いのか、あるいはFFの駆動方式に由来するものなのかわからないけど、とにかくスポーティに加速すれば「しゃくる」クルマだった。かつてBセグが「リッターカー」と呼ばれていた頃(2000年頃)の日本メーカー車(マーチ、ヴィッツなど)はとにかく横方向にスライドしていてマニア受けしていたけども、MINIクーパーSはラフなアクセルワークをすれば簡単に縦方向にスライドする。車重が軽くて跳ねる日本車はいくらでもあるけど、エンジンパワーで堂々と縦にスライド(タイヤの性能が不足?)する日本車があるだろうか!? 日本市場においてオンリーワンな乗り味を持ち、クルマのバランスを意図的に崩したBMWグループ車という意味では、BMW・Mに比肩する存在といっていい。
cardrivegogo-diary.blogspot.com