スポーツカー対決!!
予選Dグループはホンダ、BMW、マツダの戦いです。総合順位が高い3メーカーによる予選グループなので当然にハイレベル・・・なはずですが、3メーカーの現状はともに王道のグランドツーリングカーよりも、よりエキサイティングな乗り味のモデルが看板車になっているので、スポーツモデルでジャッジしたいと思います。
ポルシェの領域にどれだけ近い!?
この3ブランドのスポーツカーは・・・誤解を恐れずに言ってしまえば、名門スポーツカーブランドのポルシェを随所に彷彿とさせる設計をそれぞれごくごく自然に取り入れています。スポーツカーのセオリーなんて、あってないようなものですけども、なぜポルシェが多くの人々に愛されるのか!?と考えると、結局のところポルシェにしかない「領域」ってものに行き着く。つまりスポーツカーとして絶対に目指すべき頂上を明確に意図して、それらをことごとく手中に収めているからなんだと思います。そして今回登場する3モデルも見事なまでにそのセオリーに忠実に作られていると感じるわけです。
BMW・M2(873万円〜)
ビーエムにビッグサルーン的な高級イメージを抱いている人には、敬遠されてしまうけども、エンジン、シャシー、ボデー剛性をほぼ2シーターと割り切って使うクルマに投入する「贅沢さ」は、なかなか味わえない醍醐味。どんなモデルに乗っても、「もっと軽くなればいいな・・・」とふと思ってしまうBMWのラインナップでは、理想的な重量配分(パワーウエイトレシオ)を実現したモデルだと言える。
さらに低重心で走行性能を高めた新型Z4が出てくるけども、このM2をさらに超える運動性能を追求するとなると、ストローク量を失うサスペンションはゴリゴリの乗り味を伝えるだろうし、BMWらしい堅牢なハードトップに包まれている感触は、ソフトトップへと変わることで妙にスースーしたものになるのは予想がつく。つまり新型Z4にM2をキャッチアップするほどのパフォーマンスグレードがあったら、それはオープンカーにしては速すぎるってことになる。
ポルシェを超えている!?
BMWは新たに8シリーズ、X7の大型モデルを用意し、スポーティというよりはクルーザー的なセレブリティな乗用車を提案し、それと同時に電動化モデルをサブブランドで拡充する予定もあるようで、主要市場におけるブランドの立ち位置を今後変える用意に取り掛かっている。確かに現状ではBMWを選ぶ根拠はあまりなかったりする。その中で2シリーズクーペやその前身モデルとなる1シリーズクーペは、方向性が薄まる2000年代以降のBMW車の中では、明確なコンセプトと一定条件を満たすユーザーから強烈に支持を受ける対象となっている。欧州はもちろん、アメリカでも日本でも根強い人気がある。
輝きは日米のユーザーを魅了した・・・
この2シリーズ・クーペにどんなカタルシスがあるのか!?V8ツインターボで完全武装するM5と並んで、BMWがライバル車に対して強烈なインパクトを持ち得るだけのオーラがM2やM240iには備わっている。BMWとエム社がポルシェをもっとも強く意識しているのがわかる。M2はケイマン、M5はパナメーラ。M4で911をキャッチアップするのはちょっと無理だけども、M2やM5はたとえポルシェ相手でも互角以上の評価が得られている。
マケラレナイ
M2とM5は『GTカーブランド』のBMWにとっては『最前線』で闘うマシンだと言える。この2台が他社モデルに圧倒的な力量差を見せつけられてしまったら、エンスーにとってのBMWの現行モデルは終わる(価値を無くす)のだろう。今のところ最高のグランドツアラーを求めてBMWを買うのならば、M2とM5この2台しかあり得ないと思う。最速4ドアサルーンの座を奪還するために登場した新型M5は、計算づくで勝てる禁じ手(AWD)を投入してきた。あの開発ネグレクト気味のBMWがこのクルマだけのためにAWDの専用装備を用意したってだけでも大きなニュースだ。
エンジンはどーすべきか!?
M2もアメリカ、日本でかなり人気が出た。BMWがユーザーの立場に立って考え抜いて作ったハイパフォーマンスカー。唯一の欠点は・・・おそらく馬力出し過ぎなところだと思う。M2を含めた2シリーズクーペ全体における最良の着地点は、幻の「230iクーペ」なんじゃないかと思う。245psくらいが日本の公道での法定速度内にとっても、FRシャシーにおいてもベストなポジションな気がする。ただし330iのユニットをそのまま使うのは芸がないかなー。6000rpm前後にピークが来るうユニットに叩き直してくれたら、喜んでもっと高得点を進呈したいと思う。
BMW・M2の採点・・・①走行性能8 ②開発/完成度6 ③エキップメント3 ④格式/モード5 ⑤ストーリー性7 合計29点
シビックtypeR(450万円)
横置きFF車を極限まで速くする・・・酔狂ともプライドとも受け取れるが、ホンダというメーカーのキャラクターには非常に合ったモデルだと思う。ホンダとマツダはどちらも衝突安全性が世界最高峰であり、エンジン、ミッション、その他のメカニズムも含め、系列サプライヤーと共に徹底的なインテグレーティッドな作り込みをブランドの核としたメーカーである。
ホンダとマツダの違い
ホンダとマツダの決定的な違いは、ホンダが「エンジン重視」なのに対して、マツダは「操縦性を重視」していることか。マツダユーザーがタイプRを運転すれば、エンジンから伝わってくる魅力に撃ち抜かれる一方で、ハンドリングやブレーキングでのマナーに関してはマツダが洗練されていると感じるだろう。逆にホンダユーザーがマツダ車に乗れば、ハンドリングの緻密さや上質なフィールには感動するものの、エンジンパワーに不満を感じるのかもしれない。
NSXより重要なモデル
ホンダ車を買う時は一番良いエンジンが載ったグレードを買うべきだ。結局ホンダ車にとってのドライビングの高まりとはエンジンパワーがシャシー性能を軽くオーバーラップするくらいに存在感を発揮しているあの独特の乗り味に集約されていると言っていい。ホンダが今後もキャラクターを忘れずにエキサイティングなブランドであり続けるためには、シャシー性能よりもエンジン性能に比重が大きいクルマ作りが必要だ。その意味でtypeRはNSXよりも存続させる意義は大きいんじゃないか。
歴代シビックtypeRの実力
今から20年前のシビックtypeRはメーカー公称値ですでに最高速度260km/hを超えていたし、欧州で販売される乗用車で最も速いモデルとしてしばしば紹介されていた。1980年代の登場時に『アウトバーンの民主化』と言われたゴルフGTIシリーズでも最新モデルは最高速度は235km/hくらいにとどまる。ホンダとマツダは欧州販売のFFモデルに関して「250km/h対応」の規格を適用させている。今ではVW、PSA、ルノーなど大衆向け欧州ブランドでは「ホットハッチ」が利益率を押し上げる定番商品になっているが、実際のところ250km/h対応ができているモデルはほとんどない。欧州における「プレミアム」の定義とは250km/h以上でアウトバーンの一番左側を走れるクルマを指していたらしい。
ホンダの野望
最高速度だけを考えれば後輪駆動のポルシェやBMW、あるいはランボルギーニやマクラーレンなどのスーパーカーならば300km/h超のゾーンにある。それでももしFFのホンダがこの領域に近づくとしたら!?世界はどーなってしまうのだろうか!?ちなみにホンダは数年前に軽自動車のエンジンを改良した試作車のテストで400km/hを軽く超える速度を記録している。何やら良からぬことを企んでいて世界の自動車産業をひっくり返そうとしているのはわかる。
速い・・・
シビックtypeRはFFホットハッチ最速を狙ってホンダが開発したのだけど、そのポテンシャルはスーパースポーツと言っていい速度レンジに突入しつつある。直4横置きという括りならば、すでにランエボがスーパースポーツになっていたけども、直4横置きFFがとうとうここまでやってきた。450万円なんて価格は嘘みたいだ・・・これなら文句ナシで完成度10でしょ。
ホンダ・シビックtypeRの採点・・・①走行性能9 ②開発/完成度10 ③エキップメント3 ④格式/モード5 ⑤ストーリー性7 合計34点
マツダ・ロードスターRF(336万円〜)
シビックtypeRとは全く逆の位相にあるスポーツカー。その昔にポルシェはRRとFRのスポーツカーを作っていた。ちょっと極端な話だけども、RRのポルシェはシビックtypeRで、FRのポルシェはロードスターに近い。シビックtypeRの取り組みは、シャシー性能を脅かすほどのエンジンパワーに耐えて高い運動神経でステア特性まで押さえ込んできた911に似ている。911もtypeRもこれからもひたすらにエンジンパワーを増やしていくのだと思われる。
FRスポーツカーとは・・・
それに対してFRシャシーを使うスポーツカーは、その操縦性の高さがスポーツカーとしての存在意義になる。ポルシェ924から始まる20年にわたるFRポルシェのシリーズも911との対比で明確な存在意義を誇っていたのだと思う。それと同じようにロードスターも絶対に操縦性が脅かされることがない範囲のエンジンパワーで運転を楽しむクルマだ。ハンドリングや荷重移動はピーキーだけども、非常にコンパクトな設計ゆえに完全に手の中に入れた走りが可能であり、ライン・トレースを一つ一つ作り上げていく走りを心ゆくまで追求できる。そんなFRスポーツの原点に対して4代目になっても忠実なクルマ作りをしている。
スーパースポーツは行き詰まる!?
世界のスーパースポーツは飽くなきパワーへの要求を高めるトレンドにあり、遅かれ早かれミッドシップレイアウトへと収束していっているけど、エンジンに妥協をしないイタリアンスポーツメーカーが圧倒的に優位に立っている。ロータスのようにエンジンもまともに作れないコーチビルダーがスーパーカー市場に参入するのは無理だ。
無個性なスポーツカーはダメだ・・・
ましてや乗用車モデルのFR設計のまま、大排気量ユニットで武装してスーパースポーツ化を狙ったAMGやBMWエムは完全に曲がり角に差し掛かりつつある。マツダもFRのスーパースポーツを企画しているようだけど、よっぽどシーン全体を塗り替えるようなクルマを出さない限りは受け入れられないだろう。なぜ自然吸気の小さなエンジンを積んだロードスターや86がグローバル市場で絶賛されているのか!?それはマツダが一番よくわかっていることだと思う。
ロードスターが極めたものとは!?
ロードスターと86はFRポルシェが目指したFRスポーツカーの理想に対して、理詰めで近似したクルマを作っている。ただし操縦性における評価は、ホイールベースと重量までもガチガチに理想を追求したロードスターに一日の長がある。そしてそれはケイマンと対峙するM2にも、FFというエキセントリックな設計のままパワーアップを重ねるシビックtypeRにも、絶対に負けないであろうロードスターがもつ「絶対領域」となっている。
マツダ・ロードスターRFの採点・・・①走行性能8 ②開発/完成度7 ③エキップメント5 ④格式/モード4 ⑤ストーリー性7 合計31点
結果発表
1st シビックtypeR 34点
3rd BMW・M2 29点
スポーツカーというのは点数化すべきものではないと思う(笑) 静粛性、快適性、高級感など多くの共通項で勝負がつく乗用車ならばある程度は同じベクトルで作られているけども、スポーツカーってのは「何を狙ったのか!?」「どれだけ到達したのか!?」という作り手と乗り手による解釈で全てが決まってしまう。残念なことに、ロードスターや86をパワーアップしろ!!と騒ぎ立てる理解力・想像力が欠如したオッサン達が、カーメディアで偉そうにしているし、日本COTYの審査員とかやってたりするんだよなー・・・。